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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)133号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、引用例の第8例の記載から、同例記載のチユーブは長さ方向にも延伸されるものであると誤認した結果、引用例の第8例記載のチユーブの製造方法は、本願第一発明に係るチユーブの製造方法と格別差異が認められず、引用例の第8例に記載されたチユーブも、チユーブの内表面の繊維方向が外表面の繊維方向よりも放射状に分布した多孔性四弗化エチレン樹脂からなるものと認められるから、本願第一発明は、引用例の第8例に記載されたものということができるとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において違法として取り消されるべきである。すなわち、

前示本願第一発明の要旨並びに成立に争いのない甲第二号証(本願発明の願書並びに添付の明細書及び図面)及び第三号証(昭和五九年八月二一日付手続補正書)によれば、本願第一発明は、多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブ、特にチユーブの繊維組織が外表面と内表面において異なつた複合構造となつていることを特徴とする多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブに関する発明であつて、従来の多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブの製造方法においては、液状潤滑剤を含む未焼結のエチレン樹脂混和物を押出し、圧延又は両者を含む方法によつてチユーブに成形した後、未焼結状態で少なくとも一方向に延伸した状態で約三二七℃以上に加熱することにより、小さい繊維によつて互いに連結された結節からなるミクロ構造を有するチユーブを得るものであり、これらの方法で得られた多孔性構造物は延伸した割合や延伸時の温度、速度等により幾分変化するとはいうものの、小さい繊維と結節とで囲まれた空間が多孔性空孔に一致しているものであつたが、本願第一発明は、チユーブの外表面と内表面の繊維組織が違つていることが好ましい用途、具体的には人工血管、人工気管、人工食道、人工胆管などの代用補綴物あるいは工業的濾過材料、更にはシール用のガスケツトパツキン具等に経済的な製品を提供することを目的とし、本願第一発明の要旨(明細書の特許請求の範囲(1)の記載と同じ。)のとおりの構成、特に、多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブの内表面の繊維方向が外表面の繊維方向よりも放射状に分布しているという構成を採用したもので、右構成を採用したことにより所期の効果を奏し得たものと認められる。そして、前掲甲第二号証及び第三号証によれば、右構造よりなる多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブは、液状潤滑剤を含む未焼結の四弗化エチレン樹脂混和物をチユーブ状に押出成形した後、チユーブの長さ方向に延伸及び膨張(径方向に延伸)した状態でチユーブの外表面が三二七℃以上で、かつ、チユーブの内表面がチユーブの外表面よりも低い温度になるように加熱焼結することにより製造されるものであるが、右の「延伸や膨張においてはその操作によつてチユーブは少なくとも処理前とは違つた寸法・形状となる」(甲第二号証第一六頁第一七行ないし第一八行)ものであり、また、右の焼結工程は、「延伸されたあるいは延伸と膨張処理を受けたチユーブを収縮しない様に固定しながら少なくとも三二七℃以上の温度に加熱することを意味する」ことが認められるから、本願第一発明にいう延伸、膨張とは右延伸、膨張工程終了時のチユーブの径及び長さは延伸、膨張工程開始時点における径及び長さよりも大きいことを意味することは明らかというべきである。他方、引用例(引用例が本願発明の特許出願前頒布された公開特許公報であることは原告の明らかに争わないところである。)に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、及び本願第一発明と引用例の第8例に記載されたものとは、本件審決認定のとおり、多孔性四弗化エチレン樹脂よりなるチユーブにおいて、該多孔性四弗化エチレン樹脂繊維によつて互いに連結された結節よりなるミクロ構造を有する点で一致し、本願第一発明では、チユーブの内表面の繊維方向が外表面の繊維方向よりも放射状に分布しているのに対し、引用例の第8例に記載されたものは、かかる繊維方向について、具体的に記載されていない点で相違することは、原告の認めて争わないところである。

ところで、原告は、本件審決が右相違点について、引用例の第8例記載のチユーブの製造方法においても、チユーブは径方向だけでなく長さ方向にも延伸され、かつ、加熱されるチユーブの外が高く内が低い温度という温度差が生じているものと認められるから、本願第一発明に係るチユーブの製造方法と格別差異が認められない旨認定判断した点を争うので、まず、引用例の第8例記載のチユーブは長さ方向にも延伸されるとした認定判断の当否について検討するに、前示引用例記載の事項によると、引用例の第8例記載のチユーブは、チユーブの一端部に栓をし、加熱下で他端部から圧縮ガスを導入しつつチユーブを膨張させて製造するものであるから、右圧縮ガスのガス圧がチユーブの径方向だけでなく、長さ方向にも加わるであろうことは容易に推認することができるが、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例記載の発明の多孔性構造を有する製品は、ペースト状のテトラフルオロエチレン重合体をペースト形成技法により成形物品に交換し、次いで右成形物品を減摩剤を除去したのちに、一方向又はそれ以上の方向に伸張することで拡大し、伸張状態を保持している間に少なくとも三二七℃まで加熱し、その後に冷却する伸張処理工程を経て製造されるものであるところ、その多孔性構造は右の伸張処理により形成され、この多孔性は、前記冷却後においても凝結又は収縮がほとんど又は全く生じないで保持される旨の記載があり、また、実施例である引用例の第8例記載のチユーブに関し、「本例における始発材料は外径〇・五〇八cmで、壁の厚さ〇・七六二mmである押出し成形された未焼結「テフロン」6Aポリテトラフルオロエチレンチユーブであつた。」(同号証第一三頁右上欄本文第三行ないし第六行)、「初めのチユーブと拡大済の無定形固定チユーブとの性質は下記のとおりである。」として示された「第8表」中、「長さ、相対単位」の欄には、始発未拡大チユーブを一・〇としたとき拡大済、無定形固定チユーブは〇・八である旨及び「外径、cm」の欄には、始発未拡大チユーブが〇・五〇八cmであるのに対し、拡大済、無定形固定チユーブは一・四二二cmである旨がそれぞれ記載されていることが認められ、右各記載を総合すれば、引用例の第8例記載の方法によつて製造されたチユーブは、その径方向については、始発未拡大チユーブよりも膨張、延伸しているが、長さ方向については、拡大、延伸されておらず、むしろ収縮しているものと認めるのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。そして、右事実からは、チユーブに加えられる圧縮ガスの圧力は、チユーブの長さ方向にも加えられるものの、それは前旨本願第一発明にいう意味でチユーブを長さ方向に拡大する力、すなわち延伸力として作用しているものと解することはできない。そうであるとすれば、引用例の第8例記載の多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブの製造方法と本願第一発明に係る多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブの製造方法とでは、長さ方向の延伸の有無という点で相違することは明らかであり、しかも、前認定説示のとおり、本願第一発明に係るチユーブの内表面の繊維方向が外表面の繊維方向よりも放射状に分布するという構成は、液状潤滑剤を含む未焼結の四弗化エチレン樹脂混和物をチユーブ状に押出成形した後、チユーブの長さ方向に延伸及び膨張(径方向に延伸)した状態でチユーブの外表面が三二七℃以上で、かつ、チユーブの内表面がチユーブの外表面よりも低い温度になるように加熱することにより製造されるものであつて、長さ方向への延伸は本願第一発明記載のものを製造するうえで不可欠の要素であると解されるのであるから、長さ方向への延伸の有無という右の相違は、両者の製造方法における格別な相違と認められる。したがつて、本件審決の、両者の製造方法には格別の差異が認められないとの認定判断は誤りであるといわざるを得ない。被告は、引用例の第8例記載の方法では、圧縮ガスの圧力はチユーブの膨張方向に対する力としてばかりでなく、長さ方向に対する力として、すなわち、延伸力として作用していることは明らかであるから、長さ方向にも延伸する旨、また、引用例には、一方向以上の延伸について説明されているところがあるから、引用例の第8例記載の方法を単に膨張方向のみの延伸に限定して解する理由はない旨、更には、第8表には、始発未拡大チユーブが押出助剤の除去前のものか除去後のものか示されていないし、右チユーブがどのようなひずみを有しているのか不明であるから、引用例の第8表の記載をもつてチユーブの膨張時に長さ方向の延伸がないとする原告の主張は意味がない旨主張するが、前認定説示したとおり、引用例の第8表には、引用例の第8例の記載の方法においては長さ方向ではむしろ収縮する旨記載されているのであつて、この点を無視して、圧縮ガスの圧力が長さ方向に加わることをもつて、長さ方向に前示本願第一発明にいう意味の延伸が行われていると解することは到底できないし、引用例の第8例以外の記載箇所に、一方向以上の延伸について説明するところがあり、また、右第8表に、始発未拡大チユーブの測定が押出助剤の除去前のものか、除去後のものか示されておらず、更にはひずみの有無が不明であるとしても、これらの事実をもつてしても前記延伸が行われていないとの事実を左右することはできない。したがつて、被告の叙上主張はいずれも採用することができない。また、被告は、引用例の第8例記載の始発未拡大チユーブが長さ方向に高度の配向性をもつた力学的異方性材料であることは原告の認めるところであり、長さ方向に高度の配高性をもつた始発未拡大チユーブの相対長さ一に対し、焼結後の固定チユーブのそれが〇・八となつていることは、無配向高分子をある方向(この場合、長さ方向)に延伸されていないとする根拠とはなり得ない旨、また、甲第五号証には配向性を有する成形品の収縮によつてもなお、延伸状態を維持する場合のあることは明らかである等るる主張するが、本願第一発明に係るチユーブの製造方法にとつて不可欠の延伸は、前認定説示のとおり、未焼結の四弗化エチレン樹脂混和物をチユーブ状に成形する成形工程とは別個の延伸工程によつてなされる長さ方向及び径方向の延伸であつて、ここにいう延伸とは、延伸工程終了時のチユーブの長さ及び径が延伸工程開始時点のそれよりも大きいことを意味するところ、被告の右主張は、本願第一発明にいう右の延伸の意義を誤解したことによる主張というほかなく、いずれも採用することができない。更に、被告は、引用例の第8例記載のチユーブの製造方法における延伸工程についての本件審決の「長さ方向にも力が加わり延伸されるものと認められる」とは、加熱下で圧縮ガスを導入しつつチユーブを膨張させているので、この場合径方向だけでなく、栓方向すなわち長さ方向にも力が加わり、その方向にセグメントが配向(すなわち、無配向物質を長さ方向に引き伸ばされた結果、その方向にセグメントが配向している状態となつていること。)し、その力学的性質が変化するような引き伸ばし過程があつたものと認定判断したものであり、そして、右「配向」は、液状潤滑剤を含む未焼結の四弗化エチレン樹脂混和物をチユーブ状に形成して始発未拡大チユーブを作る際の「成形」による「配向」を含む趣旨であり、そのことを前提として、本件審決理由における「延伸される」とは、「成形」による「配向」がないものとした場合の出発材料の長さを基準とし、拡大済、無定形固定チユーブの長さがその基準値よりも実質上増大していれば「延伸」があつたといえるという趣旨であるから、本件審決における前記判断に誤りはない旨主張する。しかしながら、本願第一発明にいう延伸の意義を右被告主張のように解し得ないことは前説示のとおりである以上、被告の右主張は、その前提において失当というほかなく、採用するに由ない。

叙上のとおり、本件審決は、引用例の第8例に記載のチユーブの製造方法において、長さ方向にも力が加わり延伸されるとの誤つた認定を前提として、引用例の第8例のチユーブの製造方法は、本願第一発明に係るチユーブの前述の製造方法と格別差異が認められないとし、引用例の第8例に記載されたチユーブも、チユーブの内表面の繊維方向が外表面の繊維方向よりも放射状に分布した多孔性四弗化エチレン樹脂からなるものと認められるとし、ひいて、本願第一発明をもつて引用例の第8例に記載されたものと同一であるとの誤つた結論を導いたものであるから、その余の点について検討するまでもなく、取消しを免れない。

(結語)

三 よつて、本件審決を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるから認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(1) 多孔性四弗化エチレン樹脂よりなるチユーブにおいて該多孔性四弗化エチレン樹脂は繊維によつて互に連結された結節よりなるミクロ構造を有し、かつ該チユーブの内表面の繊維方向が外表面の繊維方向よりも放射状に分布していることを特徴とする多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブ。(以下「本願第一発明」という。)

(2) 液状潤滑剤を含む未焼結の四弗化エチレン樹脂混和物をチユーブ状に成形したのち、少なくともチユーブの長さ方向に延伸した状態で少なくともチユーブの外表面が三二七℃以上で、かつチユーブの内表面がチユーブの外表面よりも低い温度になるように加熱することを特徴とする多孔性四弗化エチレン樹脂チユーブの製造方法。(以下「本願第二発明」という。)

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